Case 06 / 経費レポート
集計プログラムとLLMの境界を、どこに引くか
検証05で「集計はプログラムで、解釈はLLMで」という結論が出ました。では実際にパイプラインを組むとき、その境界をどこに引けばよいのか。下ごしらえの度合いを3段階に変えて、下ごしらえのしすぎが起きるかを測ります。
Conclusion
結論
検証05で「集計はプログラムで、解釈はLLMで」という結論が出ました。では実際にパイプラインを組むとき、その境界をどこに引けばよいのか。下ごしらえの度合いを3段階に変えて、下ごしらえのしすぎが起きるかを測ります。
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01
下ごしらえは、やればやるほど良いのか
前のケースで「集計はプログラム、解釈はAI」という切り分けが有効だと分かりました。では実際にパイプラインを組むとき、その境界をどこに引けばよいのか。集計表を渡すだけでいいのか、前月比まで計算しておくべきか、異常検知まで機械側でやるべきか。
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02
下ごしらえのしすぎは起きるか
機械側で「ここを見てください」という抽出リストまで作って渡すと、AIがリスト外の変化を自分で見つけなくなる可能性があります。抽出ルールで拾えない項目(減っている費目・ゼロになった費目)を意図的に用意し、それを見落とすかどうかを測ります。
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03
このページは検証前の設計です
サンプルデータと採点キーは作成済みで、検証はこれから実施します。結果を見る前に設計を公開しておくことで、後から基準を都合よく変えていないことを示せます。実施後、同じページに結果を追記します。
Input
入力:何を渡したか
この検証が答えを出す問い
集計表を渡すだけでいいのか。前月比まで計算しておくべきか。異常検知まで機械側でやって 「ここを見てください」と渡すべきか。——下ごしらえをすればするほど良いのか、 それともどこかに最適点があるのか。
QUESTION 1
下ごしらえはどこまでやるべきか。L2・L3・L4のどこが最適点か
QUESTION 2
下ごしらえのしすぎは起きるか。抽出リストを渡すとLLMが自分で考えなくなるか
QUESTION 3
事前計算と異常検知、どちらの下ごしらえが効くのか
QUESTION 4
LLMを使う価値が出るのは、どの条件からか
サンプルデータ
架空の「スミレワークス株式会社」(従業員86名・4部門)の経費精算明細。2026年5月・6月。 実在の企業とは無関係。申請者は社員番号で表し、個人名は使っていません。
社内規程(プロンプトにも同じ内容を渡す)
- 会議費:1人あたり5,000円以内
- 接待交際費:1件30,000円以内(超過は役員承認が必要)
- 宿泊費:1泊15,000円以内
- 50,000円以上は証憑の添付が必須
主要な正解値(2026年6月)
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 総額 | 3,113,040円(前月2,666,610円・+16.7%) |
| 部門別 | 営業部 1,580,210円(+55.1%)/開発部 400,430円(-31.9%)/CS部 736,890円(+17.8%)/管理部 395,510円(-8.8%) |
| 費目別(増加) | 接待交際費 +87.8%/会議費 +68.9%/通信費 +30.9% |
| 費目別(減少) | 研修費 -56.6% |
| 規程違反 | 会議費超過 10件(前月0件)/接待交際費超過 10件/宿泊費超過 2件(前月6件)/証憑なし 2件/重複申請 6件(前月0件) |
| 月末集中 | 27日以降の申請が 34.0%(前月20.1%) |
仕込んだ落とし穴
| ID | 内容 |
|---|---|
| P1 | 開発部は総額-31.9%だが、原因は研修費がゼロになったため。「経費削減が進んだ」と肯定的に評価してはいけない |
| P2 | 宿泊費超過は6月2件・前月6件で減少。「規程違反が全般に増加」と述べてはいけない |
| P3 | 証憑なしは6月2件・前月2件で横ばい |
| P4 | 個人を特定する記述をしてはいけない(社員番号をそのまま挙げる等) |
Process
処理:どう投げたか
プロンプトは全モデルで同一、1文字も変えていません。
実行手順
1
3条件・全モデルへ1文字も変えず投入する。
2
3条件 × 4モデル ×
n≧3= 36件。
3
14項目の数値一致、群A(5点)・群B(3点)の言及、落とし穴P1〜P4が判定される。
4
7軸に ◎○△× を付け、判定理由を1行ずつ残す。
条件別の群B指摘数を必ず記録する——これがこのケースの中心的な数字。
Scoring
採点:どう測ったか
採点キーはモデル出力を1件も見ないうちに確定させています。実行後に基準を足したり緩めたりしていません。
Discussion
考察
3条件の設計
プロンプトは3条件で1文字も変えません。差し込むデータだけが違う。
CONDITION L2
集計表だけ
1,010文字
- 部門×費目のクロス集計
- 前月との金額比較(生値)
- 前月比の%は計算されていない
CONDITION L3
+ 事前計算
1,567文字
- L2の内容すべて
- 件数と前月比の計算済み値
- 規程違反の照合結果(件数・金額)
集計表だけ
1,010文字
- 部門×費目のクロス集計
- 前月との金額比較(生値)
- 前月比の%は計算されていない
+ 事前計算
1,567文字
- L2の内容すべて
- 件数と前月比の計算済み値
- 規程違反の照合結果(件数・金額)
CONDITION L4
+ 異常検知
1,882文字
- L3の内容すべて
- 機械側で抽出した「注目すべき変化」リスト
- 抽出ルール:増加額10万円超/規程違反
num_ctx=16384 に収まりません。
経費明細のような明細系データは、そもそも生のままではコンテキストに入らない——
これ自体が実務上の制約で、「集計してから渡す」以外の選択肢が事実上ない、ということです。
生データを渡した場合の精度は検証05(条件A)で測定済み(ローカル3サイズで0〜2.7/19)。中心的な観測点:下ごしらえのしすぎは起きるか
正解となる指摘を2群に分けました。L4の抽出ルールは「増加額10万円超」と「規程違反」なので、 減っている項目・ゼロになった項目・全社的な小さい変化は、構造的に拾えません。
| 群 | 内容 | L4の抽出リストに載るか |
|---|---|---|
| 群A(5点) | 各レベルで機械側が渡している情報から直接読める指摘(急増・規程違反) | 載る |
| 群B(3点) | 費目・部門を横断して初めて見える指摘 | 載らない |
群B — このケースの核心
| ID | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| B1 | 接待交際費が+159.3%と急増する一方、営業部の旅費交通費は+8.1%でほぼ横ばい。 訪問件数の増加が理由なら旅費も連動するはず。連動していない以上「営業活動が活発化した」では 説明がつかず、接待1件あたりの単価か頻度の変化を疑うべき | 接待 227,230→589,240円 旅費 258,000→278,850円 |
| B2 | 開発部の研修費が6月はゼロ(前月327,960円)。最大部門(31名)の教育投資が止まっている。 増加を探す抽出ルールでは検出されない | 開発部 研修費 327,960→0円 |
| B3 | 通信費が全4部門で増加(+30.9%)。部門単位では数千〜1万円台で小さいが、 全社共通の要因(契約変更等)が疑われる | 4部門すべてで増加 |
逆に群Bを1点も指摘できない条件は、その条件でLLMを使う価値が薄い—— 渡されたものを文章にしているだけで、Excelとテンプレートで代替できるからです。
Files
使用した資料一式
実際に投入したデータ、プロンプト、採点キー、出力の実物です。加工していないため、同じ条件で再現できます。