Case 04 / 英日翻訳
事実の転記は完璧、意図を汲む処理で差が出た
架空の英語マーケティング文書5種を同一プロンプト・同一用語集で翻訳させました。後編集を前提にすれば14Bが実用圏。クラウド側も見出しの欠落を起こしています。
Conclusion
結論
架空の英語マーケティング文書5種を同一プロンプト・同一用語集で翻訳させました。後編集を前提にすれば14Bが実用圏。クラウド側も見出しの欠落を起こしています。
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01
数値や日付の転記は、ローカルでもほぼ完璧だった
英語のマーケティング文書5種を日本語に翻訳させました。金額・日付・表の構造といった「そのまま移すだけ」の処理は、ローカルモデルでもほとんど間違えません。差が出たのは、原文の意図をくんで日本語らしく書き直す場面でした。
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02
契約条件が逆になる誤訳が出た
8Bは
is not prorated(日割り計算されない)を「割引は行われません」と訳すなど、契約条件を逆に伝える誤訳を2件出しました。原文と全文を突き合わせないと気づけない誤りで、それは翻訳をやり直すのと変わりません。 -
03
クラウドも無傷ではなかった
訳の質がもっとも高かった Claude Sonnet 5 は、H1見出しを丸ごと落とすという別種の欠陥を示しました(3回中1〜2回)。Webページの翻訳では見逃せません。「クラウドなら安心」ではなく、クラウドでも検証は要ります。後編集を前提にすれば、14Bが実用圏に近い結果でした。
Input
入力:何を渡したか
この検証が答えを出す問い
海外製品の国内展開、海外向け資料の日本語化、英語技術資料の社内共有。マーケティング文書の英日翻訳は外注費が積み上がりやすく、 かつ内容が公開前の機密であることが多い。閉域環境で回せるなら実利が大きい業務です。
QUESTION 1
マーケティング文書の英日翻訳は、ローカルLLMで実務に載るのか。載るとしたら何Bからか
QUESTION 2
用語集を渡せば訳語の一貫性は守られるのか。それともモデルサイズに依存するのか
QUESTION 3
どの文書種別なら任せられるのか。事実の転記が中心の文書と、言葉遊びを含むコピーとで線引きは変わるか
QUESTION 4
人手による後編集の量はどれくらいか。「使えない」のか「直せば使える」のか
サンプルデータ(全5種)
登場する企業・製品・人物はすべて架空。実在の団体とは無関係。原文は各266〜338語。
| ID | 種別 | 難易度 | 狙った失敗モード |
|---|---|---|---|
| V01 | プロダクト紹介ページ | 易 | 用語集の遵守、料金条件(1シートあたり月額)の取り違え |
| V02 | プレスリリース | 中 | million→万の桁変換、増減の方向、固有名詞、人名のカタカナ表記、日付 |
| V03 | 料金・機能比較表 | 難 | 表構造の保持、否定・条件の反転、単位の取り違え |
| V04 | 導入事例 | 中 | 成果数値3点セットの整合、口語表現 |
| V05 | 広告コピー・CTA | 難 | 慣用表現6種の直訳、言葉遊び、最上級の付け足し |
埋め込んだ難所(抜粋)
| $42 million | 「4,200万ドル」。million→万 は英日翻訳で最も落ちやすい箇所 |
| $18 per seat / month, billed annually | 「1シートあたり月額$18、年間一括請求」。年額と訳すと価格を1/12に誤認させる |
| Monthly billing is available at a 20% premium | 「20%割高」。割引と訳すと契約条件が逆になる |
| that seat … is not prorated | 「日割り計算は行わない」 |
| churn fell to 4.2%, down from 9.8% | 低下したという方向を保てるか |
| contracts start at 12 months | 「契約期間は12か月から」。「12か月後に開始」は誤り |
| move the needle / boil the ocean / low-hanging fruit | 字義どおりに訳すと壊れる慣用表現。「針を動かす」「海を沸かす」は誤訳 |
| Stop weaving. Start shipping. | 製品名 Loomstack(loom=織機)に掛けた言葉遊び。日本語のコピーとして機能する訳が要る |
| SSO / SLA / API / SOC 2 Type II | 訳さずそのまま残す語。製品名・社名も同様 |
workspace workflow deployment seat など14語について、
指定訳と使ってはいけない訳の両方を用語集で明示しています。
これにより「訳語のブレ」をモデルの自由度から切り離し、指示を守れるかどうかだけを測れます。Process
処理:どう投げたか
プロンプトは全モデルで同一、1文字も変えていません。
実行手順
1
1文字も変えず、全モデル・全原文へ投入する。 文言を変えると、精度の差なのか指示の差なのか分からなくなる。
2
全モデル×全原文×
n≧3。訳文と、応答時間・トークン数を含む生レスポンスを分けて保存する。
3
未達が種別ごとに一覧化され、あわせてバリエーション別の目視確認項目が表示される。
4
7軸に ◎○△× を付け、
判定理由を1行ずつ残す。 参照訳は難所の処理を比べるときだけ開き、一致度はスコアにしない。
Output
出力:何が返ってきたか
全60件を公開しています。クリックで出力のJSONを開きます。
| モデル | V01 | V02 | V03 | V04 | V05 |
|---|---|---|---|---|---|
| claude-sonnet-5クラウド | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 |
| qwen3:32b | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 |
| qwen3:14b | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 |
| qwen3:8b | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 | run1run2run3 |
Scoring
採点:どう測ったか
採点キーはモデル出力を1件も見ないうちに確定させています。実行後に基準を足したり緩めたりしていません。
「正解」をどう用意したか
翻訳には唯一の正解が存在しません。同じ原文から、等しく正しい訳文が何通りも書けます。 一致率で採点すると、正しい訳が「参照訳と違う」という理由で減点されてしまう。そこで正解を二層に分けました。
LAYER 1 — 客観
必達項目
- 数値・日付・金額の保持
- 固有名詞・略語(訳さない語)の維持
- 指定訳語の使用/禁止訳語の不使用
- 原文にない最上級表現の不在
- Markdown構造(見出し・箇条書き・表の行数)
- 英語の訳し残しがないこと
すべて「訳者の裁量ではなく、外したら誤り」と言い切れるものだけ。
機械照合する。LAYER 2 — 主観を含む
参照訳
- 難所をどう処理しうるかの見本
- 慣用表現・言葉遊びの訳し方の比較対象
- 日本語としての自然さの目安
参照訳は「ありうる良い訳の一例」であって、 これと違う訳が誤りだとは限らない。
基準の健全性は実行前に確認済み
参照訳5本すべてが必達項目を未達0件で通ることを確認してあります。 参照訳が自分の基準を満たさない状態(=基準か参照訳のどちらかが誤っている状態)ではありません。
python3 03_scripts/check_translation.py --reference → 未達 合計 0 件
評価軸(7軸・4段階)
全ケース共通の7軸を、このタスク用に読み替えて使う。採点キーはモデル出力を1件も見ないうちに確定させてある。
| 軸 | 共通の名称 | このケースでの読み替え |
|---|---|---|
| ① | 網羅性 | 原文の情報が漏れなく訳出されているか。段落・箇条書き・表の行の欠落、要約による圧縮がないか |
| ② | 抽出の正確性 | 数値・金額・日付・期間・割合の保持。桁変換、増減の方向、起点と終点 |
| ③ | 属性の正誤 | 固有名詞・製品名・略語の扱い、人名のカタカナ表記、役職名、指定訳語の一貫性 |
| ④ | 曖昧な事項の扱い | 慣用表現・言葉遊び・皮肉を、字義どおりではなく意味の通る日本語にできているか |
| ⑤ | ハルシネーション | 原文にない訴求・数値・機能・保証の追加。最上級表現の付け足し |
| ⑥ | ノイズ除外 | 訳注・翻訳方針の説明・前置き・英語原文の残留・思考文の混入 |
| ⑦ | フォーマット遵守・日本語品質 | Markdown構造の保持、敬体の統一、直訳臭のなさ、日本語としての自然さ |
Result
結果
全モデルが達成した項目
機械照合の結果、次の項目はローカル3サイズ・全15条件・全3試行で未達ゼロだった(Sonnet 5 は見出し欠落あり。第3節参照)。
0件
数値・金額・日付の欠落
0件
Markdown構造の崩れ
0件
英語の訳し残し
60/60
桁変換 $42 million → 4,200万ドル
7軸の評価
◎=誤りゼロ / ○=軽微な誤り1〜2 / △=誤り3以上または重大誤訳1 / ×=破綻。 軸は全ケース共通の7軸をこのタスク用に読み替えたもの。
| バリエーション | モデル | ①網羅 | ②正確 | ③属性 | ④曖昧 | ⑤幻覚 | ⑥ノイズ | ⑦形式 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| V01 プロダクト紹介 易 |
Sonnet 5 | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| 32B | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | |
| 14B | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | |
| 8B | ◎ | ○ | △ | ◎ | ◎ | ◎ | △ | |
| V02 プレスリリース 中 |
Sonnet 5 | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| 32B | ◎ | ◎ | △ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | |
| 14B | ◎ | ○ | × | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | |
| 8B | ◎ | △ | △ | ○ | ◎ | △ | ○ | |
| V03 料金・機能比較表 難 |
Sonnet 5 | △ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| 32B | ◎ | △ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | |
| 14B | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | |
| 8B | ◎ | △ | △ | △ | ◎ | ◎ | ○ | |
| V04 導入事例 中 |
Sonnet 5 | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| 32B | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | |
| 14B | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | |
| 8B | ◎ | ◎ | △ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | |
| V05 広告コピー・CTA 難 |
Sonnet 5 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ |
| 32B | ◎ | ◎ | ◎ | × | ○ | △ | △ | |
| 14B | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | △ | ◎ | |
| 8B | ◎ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ○ | × |
①網羅性 ②抽出の正確性 ③属性の正誤 ④曖昧な事項の扱い ⑤ハルシネーション ⑥ノイズ除外 ⑦フォーマット遵守・日本語品質
Discussion
考察
重大誤訳
読み手の意思決定を誤らせる誤り。3件すべてが契約条件・料金条件に関わるもので、うち2件は8B。
| モデル | 原文 | 訳出 | 問題 |
|---|---|---|---|
| 8B | Monthly billing is available at a 20% premium | 月単位での請求は20%の割引で利用可能です | 割高↔割引の反転。読者は月次契約が得だと誤解する |
| 8B | that seat is released … and is not prorated | 割引は適用されません | prorate(日割り計算)を discount(割引)と取り違え。
返金条件を誤って伝える |
| 32B | that seat is released … and is not prorated | 割引は行われません | |
| 14B | (同上) | 按分されることはありません | 正しく処理 |
| Sonnet 5 | (同上) | 日割り計算は行われません | 正しく処理。V03の重大誤訳ポイント3箇所すべてを通過したのは 14B と Sonnet 5 の2つだけ |
V05だけ序列が反転する
広告コピー(V05)では14B が 32B を明確に上回った。慣用表現の処理に、モデルサイズと相関しない差が出る。
| 原文 | 32B | 14B | 8B | Sonnet 5 |
|---|---|---|---|---|
| move the needle | 針の動かしにはなりません | 状況を改善しません | 問題を解決しない | それでは前に進みません |
| boil the ocean | 海を沸かしてすべてを一括標準化させる | 一度にすべてを標準化する | すべてを一気に標準化する | 一度にすべてを標準化させるような大掛かりな取り組み |
| low-hanging fruit | 低コストの成果物 | 低コストで成果が得やすいところ | 低コストで手が届く成果 | 着手しやすいところ |
| No discovery call before the discovery call | 発見の電話会議の前に発見の電話会議はありません | ディスカバリーコール前のディスカバリーコールなし | — | 商談前の商談もありません |
| Stop weaving. Start shipping. 製品名 Loomstack(loom=織機)に掛けた言葉遊び |
織りをやめて、出荷を始めましょう | 編み続けるのをやめ、出荷を始めましょう | 止めてください。作業を始めましょう | 織り上げるのをやめて、届けることに集中しましょう |
その他、コピー特有の崩れ
- 32B:
disclaimerを「フッターディスカイマー」と音写崩れの造語で訳出。原文にない「最高の」を2/3回で追加 - 14B:造語
handoff taxを「Handoff Tax(ハンドオフタックス)」と英語原文を残したまま併記 - 8B:敬体が崩壊し常体と半々(参照訳は敬体25文・常体0文)。
Emailを「エマール本文」と誤記、Q2 2026を未変換
用語集は守られなかった
14語の指定訳と禁止訳語を明示したうえで投入したが、3サイズとも違反が出た。
| モデル | 違反 | 再現率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 32B | rollout → 「ロールアウト」(指定訳は「展開」) | 3/3回 | 同じ語を毎回同じように誤る |
| 14B | rollout → 「ロールアウト」 | 2/3回 | |
| 8B | deployment onboarding headcount の指定訳を未使用 | 2〜3/3回 | 違反数が最多 |
| Sonnet 5 | 社名 Harborlight Systems を「ハーバーライト」とカタカナ化 |
1/3回 | 指定訳語の違反はゼロ。固有名詞のカタカナ化のみ、しかも試行によって出たり出なかったり |
| 14B | 投資家・企業名4社をすべてカタカナ化 Ridgeway Capital / Kestrel Ventures / Ashford Group / Talloway Software |
3/3回 | 用語集に「原文のまま」と明記。プレスリリースでは固有名詞の改変が事実の改変にあたる |
temperature=0 でも出力は揺れた
Qwen3では決定的な設定にしたにもかかわらず、全15条件で run1 が独自、run2 と run3 が同一という結果になった。 run1 と run2/3 の類似度は79〜96%。Sonnet 5 はさらに揺れが大きく75〜86%(temperature を指定できないため当然ではある)。
| モデル | V01 | V02 | V03 | V04 | V05 |
|---|---|---|---|---|---|
| Sonnet 5 | 77% | 85% | 86% | 84% | 75% |
| 32B | 93% | 86% | 91% | 90% | 84% |
| 14B | 92% | 79% | 96% | 79% | 80% |
| 8B | 86% | 79% | 91% | 87% | 91% |
文書種別ごとの適性
| 文書種別 | 適性 | 根拠 |
|---|---|---|
| 導入事例 | 高 | 3サイズとも成果数値を完全保持し、口語表現も直訳を避けて処理できた。最も安全 |
| 料金・機能比較表 | 条件付き | 表構造はローカル3サイズとも完璧。ただし注記文に重大誤訳が集中し、Sonnet 5 は逆にH1タイトルを2/3回落とした。表は任せ、注記と見出しは人が見る運用が現実的 |
| プレスリリース | 条件付き | 数値・日付は安全だが、固有名詞・人名の扱いが不安定。事実性が最重要な文書種別だけに要注意 |
| プロダクト紹介 | 中 | 概ね良好。見出しの直訳臭が残る(「あなたが得られるもの」等) |
| 広告コピー | 低 | 最も危険。慣用表現・言葉遊びで大きく崩れる。コピーは人が書くべき |
後編集コストの見立て
- Sonnet 5 — 訳文の手直しはほぼ不要。ただし見出しの欠落チェックは必須(機械的に検出できる)
- 14B — 固有名詞の一括置換+数箇所の語彙修正。機械的に処理できる部分が大半
- 32B — 広告コピー相当の文書は書き直しに近い。事実系の文書なら14Bと同程度
- 8B — 原文との全文突き合わせが必要。後編集ではなく再翻訳
Files
使用した資料一式
実際に投入したデータ、プロンプト、採点キー、出力の実物です。加工していないため、同じ条件で再現できます。